RCP 60th anniversary
「“共感”が生まれるデザイン」

今井:私たちアール・シー・ピーと外山さんが初めてお会いしたのは、デザイナーとして独立される前でしたね。

外山:僕が福井の眼鏡メーカーのインハウスデザイナーをしていた頃、お店へ営業に伺ったのが最初でした。当時のバイヤーの方に、ありがたい意見をたくさん頂戴したのを覚えています(笑)。

今井:すみません…(笑)。今思えば、まだ20代なのに生意気なことを言っていたかもしれません。

外山:でも、正直な意見のほうが、僕にはプラスに作用するんです。デザインするからには、相手ありきのモノを作りたいと考えているので。座右の銘は、「No pain,No gain」。痛い思いをしてこそ、得られることがあると思っています。

今井:そのバランス感覚が、外山さんのすごいところですよね。デザイナーは、どうしても自分のコンセプトワークに籠ってしまいがち。かといって、“いかに売れるか”を考え過ぎると、まったくつまらないものになってしまうし。

外山:僕らの世代は、ストリートカルチャーの黎明期。その影響もあるかもしれません。DCブームの世代は、もっと“アーティストであれ”という思想があったと思うんです。でも、僕らから下の世代は、情報をシェアしたり、横とどうつながっていくかを考える。モノありきでではなくて、そこに人が介在するんです。

今井:そもそも、なぜ眼鏡のデザインを?

外山:昔から「人に対して何かしたい」という思いがあったんです。だから、子どもの頃はコックになりたかった。街に描いてあるようなグラフィティアートも好きだったんですけど、それらには、“自分が生み出したもので、人に喜んでもらえる”という共通点があるんですよね。そして、その生み出したものが、言葉の通じない人との共通言語にもなる。

今井:たしかに。

外山:それと、趣味で撮っている写真もそうなんですけど、街から自然に出てくるメッセージを描き留めたいという思いがあって。外国の街をあてもなく歩くのが好きなんですが、その国々の生活だったり、グラフィティだったり、アートだったりが、語りかけてくるじゃないですか。それを収めたいんです。

今井:ユウイチ トヤマ.のデザインアイコンになっている「ダブルダッチ」も、公園でダブルダッチ(=2本でやる大縄跳び)をしている若者からインスパイアされていますね。

外山:ダブルダッチはまさにそれで、たとえば街で起こっている身近なモチーフを、デザインの言語として落とし込む。すると僕のフレームを使う人たちが、それに「あっ!」と気が付いたとき、共感が生まれる。デザインには、そうした力があると思っています。それを眼鏡という日常的に使うものに落とし込んでいきたいというのが、眼鏡デザイナーになった理由です。

今井:外山さんのデザインは、ブランド名がユウイチ トヤマ.に変わった数年前から、ものすごく完成度が高くなっていると感じています。使い手や売り手の意見も反映しながら作っているんだけど、アートとしても成立している。

外山:ダブルダッチシリーズは、これから10年20年経っても「ユウイチトヤマ.らしい」と言われる、オリジナルな構造を作りたいという思いから生まれました。ブランド名をそのタイミングで自分の名前に変えたのも、これで勝負していこうという思いの表れです。

今井:オリジナリティがあるけれど奇抜なわけでなく、かといってシンプル過ぎるわけでもない。

外山:時代のなかで共感できる範囲の目新しさ、というのは意識しています。

今井:なるほど。ところで今、外山さんをはじめ同世代のデザイナーさんが世界で活躍していますが、若い世代は少ないですよね。

外山:インハウスデザイナーも若手不足らしいのですが、これは結構深刻な問題だと思います。

今井:美大や専門学校などで外山さんのお話しが聞けるような機会が増え、職業のひとつとして眼鏡デザイナーを考えてくれるといいのですが。

外山:気が付けば、僕も年齢的に上のほうですし、そろそろ会社のほうも後進の育成やマネージメントに力を入れていきたいと思っているんですが……。

今井:外山さんには、いつまでもプレイヤーでいてほしいですけどね。

外山:もちろん、今だからこそできる表現というのがまだまだあると思っています。たとえばダブルダッチで新たな表現手法を開拓できたように、もう一度自分らしい表現を生み出すことが今の課題です。次世代につなげるために自分のDNAを残す、デザイナーとしての終活というか……。

今井:終活なんて、まだ早過ぎますから(笑)!

※インタビューの記事はR.C.P全店舗にて無料配布しております
60周年記念LOOKBOOKにも掲載しております。


QUESTION & ANSWER QUESTION & ANSWER
普段メガネはかけていらっしゃいますか?

YUICHI TOYAMA.ディファインシリーズのU-128。

自身が手がけたアイウェアをかけてもらいたい著名人はいますか?

ドイツのBauhausの教壇に立った偉大な先生方。
ダブルダッチシリーズのモデル名をチェックして頂けたら分かるはずです!

死ぬ前に食べたいものはなんですか?

直感的に美味しいカレーだと思いましたが、少し考え、美味しい鮨と訂正する自分をイメージしました。

右脳派・左脳派どちらですか?

右脳派と言いたいとこですが、正直言って自分でもわかりません。

座右の銘は?

No pain no gain.と、Think rich, look poor。

PROFILE

2009年設立のブランド「USH」から名称変更し、2017年春夏コレクションより、リスタート。ブランドポリシーは「伝統的な技術と革新的なデザイン」。 デザイナー外山が自身に課した5つのルーティン(見る、考える、描く、作る、壊す)を根幹にデザインしたフレームは、独創的でありながら、ユーザーの日常に寄り添うブロダクトとして国内外にて高い評価を得ている。

HP>>>http://yuichitoyama.com/
Instagram>>>https://www.instagram.com/yuichi_toyama_official/

Photo_NOJYO

Text_Mirei Ito

撮影協力_Zig TOKYO